承認欲求の骨

総合的な言語感覚を磨く練習です。

淡家朴 『死靈』(2018)

 

私は既に、人生に飽きてしまゐました。これから幾年も生きてゆかなければならないと想うと、やれません。はあ、ええと想うのです。

従て私は極めて素朴なままで在りたいと願うばかりです。何も目指さずに何も要求せずに、暇で暇で仕様の無い怠惰の大草原を、暇潰しの歌と文とを幾つか拵えながら、一人分の秘密の世迷言に齧り付いて居ようと願つてゐます。

但、私が今、秘密の世迷言に齧り付こうとしてゐるのを、じつと見つめて離さぬ一つの翳が在ります。翳は透明な舟蟲のような幻視を私に送ります。そして、その幻視を通して痴呆的に、亦、統合的に私を或る樂園の椅子に座らせようとするのです。嘗て、私が座つてゐたことを懐かしむように、翳は私を睨んでは、舟蟲を遣ります。舟蟲達は幾重にも列を成しては一斉にすばしこくザザザザと私の方へ這い出して來てしまいますので、手で追いやらいますと、椅子の下の方へ退いて行きました。

 

その日も、私は持ち前の精神の明るさで、報酬系を働かせては、樂園への招待を断り続けましたが、たうたう平生の仕事のことと、結婚生活のことのあれこれとが重なり、うつかり自閉と修繕との機会を取り逃がしてしまい、結果、無數の翳の介入を赦した上に思考停止を引き起こし、秘密の世迷言に一切合切感応跋扈することが無くなつてしまいました。従て私は、瞬間に身を堕としてゐたのでした。それから幾つか精神を改造して今が在ります。心の不穏なのに、釣上げようとしながら亦これを往なすのは、その時の経験と學習の結果に他なりません。