承認欲求の骨

総合的な言語感覚を磨く練習です。

淡家朴『駅員』(2018)

 

 美男子走性の眼球とその他諸々の神経の集合体は、自己の顔面という概念を忘却し、無人駅のふりをしている。

私は、無銭乗車の常習犯を今日も捕まえられないでいた為、無用に苛立っていて、

「ちよっと〻、おじやうさん、そんなところで、そんなかっこうをしていると、いまにつままれますよ。」と言ってやった。

が、無駄であった。無人駅は既に沈黙していた。

粘性の毒液を垂れ流しながら、その眼球は、既に眼前の光景を捉えて離さなかった。

私は二等辺三角形を描くように視点を動かして、その視点の結び目を探してやった。

色の無い箱の色の無いコート、ただ髪の毛を持った180センチ四方の生肉のトーテムポールが、アスファルトから生えて、こちらへ向かって緩やかな突進をしていた。

よく見ると、なんと背中にはギターを背負っているではないか。私は戦慄した。

「おっと、これはまずい。おじやうさん〻、そこを退きなさい。あれは、まずい。バンドマンなるものじゃ。こりゃ〻、退きなさい〻。」

 

無駄であった。

 

無人駅は口角を上げて、こう言った。

「ギターをね、上手に触れる人はね、私にもね、上手に触れるに決まっているわ。そう思っていたの。そう思っていたのだけど、それは全部ウソだった。だから、今度はこうして、無人駅をやって、死んだ木をトーテムポールに、トーテムポールを死んだ木にするの。そういう運命なの。私はお嫁に行けないのだから、こうするしかしようが無いのです。駅員さん、どうか私を止めないでください。これが私の生き方なのですから。何卒〻。」

 

----あゞ、何という。

 

私は、失格だと思った。

私が、失格だと思った。

 

その晩、私は静かに、自分の生殖器を切り取って、死にました。

 

 

 

2018/4/2